9.2. 子孫に伝わる特徴と遺伝様式
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遺伝に関する科学的な研究
メンデルはウィーン大学で物理学、数学、化学を修めたことから、メンデルの研究は実験的および数学的に非常に厳密で室の高いものだった
メンデルは1866年に出版された論文で、エンドウの紫色の花やマルイ豆粒などの遺伝性の特徴が、個別の「遺伝性因子」が親から子へ受け渡されることにより生じるものであると主張している
メンデルは論文の中で、遺伝性因子が世代を超えて個別の形質を保持し、この因子は決して融合したり、一時的に消失したりしないことを強調している
修道院の庭で
栽培が容易
花の色のように個体ごとに異なる遺伝性の性質や形態
個々の株の性質や形態
日本語ではcharacterもtraitも形質という用語があてられている
実験材料としてのエンドウの最も大きな利点は、エンドウの生殖をメンデルが厳密に管理できた点
メンデルは自家受粉を確実にするため、花に小さな袋をかけることもできた
メンデルが他家受粉を行いたいときは、手で受粉させることも可能だった 雄ずいを取り除き、別の個体の花粉を雌ずいに移す
メンデルが研究のために選んだ個々の形質は、明確に区別できる2通りの株が存在するもの
純系の株とは、自家受粉させたときに生じる子孫がすべて親株と同じ形質を示す株
以上の条件を満たしたことにより、メンデルは異なる純系の変種同士を交配させたときに何が起こるかを厳密に論じることができた
2つの異なる純系の個体の交配から生じる個体
交配のときの親株
交配で生じる第1世代の雑集
filial(ラテン語で息子、娘)の略
F1の植物体を、自家受粉またはF1株同士で受粉させた結果生じる第2世代の株
メンデルの分離の法則
1遺伝子交雑
親株の形質が1つだけ異なる株同士の交配
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メンデルは、白花の遺伝性因子はF1世代の株の中で消失したわけではなく、紫花の遺伝性因子が存在するときには何らかの理由で白花の因子が隠されていると結論づけた
さらにメンデルは、F1世代の株は花の色という形質に関する遺伝性因子を2つ保有し、一方が紫花の因子でもう1方が白花の因子であると推論した
以上の実験結果らメンデルは4つの仮説を組み立てた(ここでは「遺伝性因子」の代わりに現代の用語の「遺伝子」を用いる) 1. 「遺伝性の形質を決定する基本単位である遺伝子には複数の型が存在する」
2. 「各々の遺伝性の形質について、生物は両親から1つずつ受け継ぐことにより2つの対立遺伝子をもつ」
同一の場合もあるが異なる場合もある
ある遺伝子についてある個体が2つの同一な対立遺伝子をもつ
ある遺伝子についてある個体が2つの異なる対立遺伝子をもつ
優性の対立遺伝子を表すときには斜字体の大文字を用い、劣性の対立遺伝子を表すときには斜字体の小文字を用いる 4. 「1対の対立遺伝子は配偶子の形成過程で分離するため、各々の遺伝性形質に関して精子と卵は対立遺伝子を1つだけもっている」 F2世代に観察された3:1の出現比率はメンデルの法則によって説明できる
https://gyazo.com/fd49b7db13f787da2340d12a3a17589d
図9.6の図式
生物の物理的な形質(紫花や白花など)
生物の遺伝的構成(例. PP, Pp, pp)
メンデルは観察した7つの形質がすべて同一の遺伝様式に従うことを見出した
メンデル以降の研究により、有性生殖を行う生物すべてについて分離の法則を適用できることが確認されている 対立遺伝子と相同染色体
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遺伝子の染色体上の位置を特定したもの
遺伝子の異なる型である対立遺伝子は、相同染色体の同一の座位に位置している
生物個体は特定の座位の遺伝子についてホモ接合またはヘテロ接合となる
メンデルの独立の法則
https://gyazo.com/69d06a3172bfbd3dbdd5da60db0cf310
P世代:丸型黄色のホモ接合体(RRYY)としわ型緑色のホモ接合体(rryy)
F1世代
すべて丸形黄色の種子をつけた
2つの形質は親から子へと一括して受け渡れたのか、それぞれの形質が独立して遺伝したのか
F2世代
一括して遺伝するなら、P世代の株と同一の2種類の配偶子(RYとry)を生産するだろう
この場合は3:1になる
独立して遺伝するなら、F1世代には4通りの遺伝子型をもつ配偶子(RY, Ry, rY, ry)が生じることになる
この場合は、4通りの異なる表現型が9:3:3:1で出現することになる
メンデルの実験では、こちらが観察された
以上の結果は、「個々の対立遺伝子の対は、配偶子形成過程で他の対立遺伝子の対とは独立して分配される」という仮説を支持した
ある形質の遺伝は他の形質の遺伝に影響を与えない
独立の法則の例
https://gyazo.com/7272f976973e9ef250f403209b10a956
毛色と視力に関する2つの遺伝性形質は別々の遺伝子により支配される
毛色: 黒(B) vs. 茶(b)
BB: 黒
Bb: 黒
bb: 茶色
NN: 正常
Nn: 正常
nn: PRA
2匹の二重ヘテロ接合体(BbNn)のラブラドールレトリバーを交配させたとき、F2世代の表現型の出現比は9:3:3:1となる 検定交雑による遺伝子型の決定
遺伝子型不明で優性の表現型を示す個体を劣性のホモ接合の個体と交配させ、遺伝子型を調べる
https://gyazo.com/c77bdb70765b8f5a107472549115712a
遺伝の確率の法則
メンデルの数学的素養は遺伝学の研究に活かされている
1回1回の独立の事象
2つの独立の事象が同時に起こる確率は、それぞれの確率の積になる
https://gyazo.com/4d0792985ee4e4828bf3a5dfd294ef53
両親の遺伝型がわかっていれば、子孫の間に現れるすべての遺伝子型の出現確率を予測することができる
メンデルの分離の法則と独立の法則について確率の法則を適用することにより、少々複雑な遺伝学的問題も解決することができる
家系図
単一の遺伝子により支配されるヒトの遺伝的特徴の例
https://gyazo.com/73109c325b60c360a0d83f2e7107dfe3
遺伝学上の優性とは、優性の対立遺伝子を1コピーしか保持していないヘテロ接合体(Aa)が、優性の表現型を示すこと 劣性の形質が優性の形質よりも普遍的であることも起こりうる
そばかすのない人の方がある人よりも多いのも一例
ヒトは検定交雑を行うことができないため、すでに行われた交配の結果を収集し、統合して家系図を作る
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一般に家系図では□は男性、○は女性を示し、研究対象としている形質に色をつける
第3世代の子どもの一人は、両親が貧乏耳ではないのに貧乏耳となっていることから、メンデルの法則の適用により、貧乏耳を指定する対立遺伝子が劣性であると推定できる そこで、家系図の中の貧乏耳の人はすべて劣性のホモ接合体(ff)として断定することができる
さらに、メンデルの法則を適用することにより、家系図の中のほとんどの人の遺伝子型を推定することができる
第2世代の夫婦は貧乏耳の子どもに対立遺伝子fを伝えていることから、福耳を市営する対立遺伝子Fとともに対立遺伝子を保有している(Ff)ことは確実
左側の祖父母も同様にFfと考えられる
ただし、家系図の全員の対立遺伝子型を推定できるわけではない
単一の遺伝子に起因するヒトの疾患
table: 表9.1 ヒトの常染色体異常(劣性)
病名 主な症状 発生率
色素欠乏症 皮膚、毛髪、虹彩の色素欠乏 1/22000 嚢胞性線維症 胚・消化管・肝臓の過剰な粘液。感染症への感受性、放置→小児期死亡 欧米人の1/1800 table: 表9.1 ヒトの常染色体異常(優性)
病名 主な症状 発生率
ハンチントン舞踏病 痴呆、制御できない身体の動き、中年になってから発症する 1/25000 劣性の遺伝性疾患
程度は様々
大部分は、正常なヘテロ接合体の両親から生まれる
ある遺伝性疾患に関して見かけ上は正常であるが、劣性の対立遺伝子を保有している人
キャリアー同士の結婚から生まれる子ども
疾患を発症する子どもの確率は1/4
キャリアーとなる子どもの確率は2/3
このような家系図分析と予測法は単一遺伝子座位に支配されるすべての遺伝性形質に適用することができる
米国で最も普遍的な致死性の遺伝性疾患
ヨーロッパ系のおよそ25人に1人がキャリアー
かつては幼少期にすべて死亡していたが、治療法の進歩により米国人の嚢胞性維症患者の平均寿命は37歳に達している
ほとんどの遺伝性疾患の出現頻度は人種の間で均等ではない
不均一な分布は、各々の集団が地理的に長期間隔離されてきた結果
マーサズ・ビニヤード島の初期の住民は隔離された環境でしばしば近親結婚を行っていた
難聴を引き起こす対立遺伝子の頻度が高く、さらにこの難聴対立遺伝子は外部の人にはほとんど伝えられなかった 近親者と結婚して子どもをもつ場合は、キャリアー同士が出会う確率が大幅に増大する
有害な劣性形質がホモ接合となった子どもが生まれる危険性が高くなる
優性の遺伝性疾患
頭部や胴体は正常だが、腕や足が短い小人症
優性のホモ接合の遺伝子型は、胎児期に死亡するため、ヘテロ接合体の人だけがこの疾患の患者となる
軟骨形成不全症の人は50%の確率でこの疾患を子どもに受け継ぐことになる
全人口の99.99%を閉める軟骨形成不全症出ない人は、すべて劣性対立遺伝子のホモ接合体
この例により、優性が集団の中で多数である必要はないことが明らか
致死性の優性対立遺伝子は、致死性の劣性対立遺伝子よりもずっと少ない
この疾患による神経系の変性は中年になるまで始まらないが、ひとたび始まると不可逆的に進行し、やがて死亡する
ハンチントン舞踏病の対立遺伝子は優性であるから、この疾患を持つ親から生まれた子どもは50%の確率でこの疾患の対立遺伝子を受け継いでいることになる
この例により、優性が「よいものである」必要もないことが明らか
2コピー受け継いだ場合は致死的で誕生できない
遺伝子検査
現代では、個人のゲノム中に存在する核種の遺伝性疾患を引き起こす対立遺伝子を検出できる遺伝子検査が開発されている 最も一般的のは妊娠中に行われるもの
誕生前の遺伝子検査には、胎児の細胞を採取する必要がある
羊水穿刺では、医師が子宮に針を指して発生中の胎児が浮かぶ羊水をスプーン2杯分採取する 絨毛膜の採取では、医師が細かく柔軟な管を女性の膣から子宮に挿入して、胎盤組織の一部を引き剥がす 羊水穿刺や絨毛膜採取は合併症の危険があるため、こうした技術は遺伝性疾患の可能性が平均よりもはるかに高いことが予想される場合にのみ適用されるのが普通
最近開発された技術には、母親の血流中に遊離する微量の胎児の細胞またはDNAを遺伝子検査に用いるものもある
残念ながらこの方法を高い信頼性でりようできる遺伝子検査は限られている
このような合併症の危険性のない検査法は将来有望であり、現代の外科的侵襲のある検査法と置き換わっていくと考えられる
遺伝学者はこのような検査により新たに引き起こされる問題が、検査によって解決される問題よりも深刻になることがないように努める必要に迫られる
遺伝子検査を望む患者に対する適切な説明と、検査結果にどのように対処していくかを支援するためのカウンセリングを受けられるようにすることが重要
しかし、患者1人ひとりにアドバイスできる遺伝子カウンセラーは何人いるか
重大な倫理的問題への対応を迫られる